シーバス
シーバス
シーバス

シーバス 62cm

 この日の前日、仕事終わりに、港湾シーバスの下見を行った。気温だけでなく、水温もようやく下がった為、部分的ではあるものの、港湾部にシーバスが戻ってきている。
 シーバスが付いているポイントに目星を付け、明日、じっくりと時間を掛けて狙うことにした。
 そして当日。仕事から帰宅後、2時間ほど仮眠を取り、コンビニの200円引きの弁当と烏龍茶で腹を満たして、前日に下見をしたポイントへと向かった。 
 
 時刻は22時を過ぎていた。釣り場に着くと、前日とは打って変わり、一面を埋め尽くす数のイワシらしきベイトが入っており、既にボイルが始まっている。これほどの数のベイトが入っているとは想定外だ。
 運が良いのか悪いのか。あいにく、私にとっては悪い状況だ。なぜなら、私はイワシボイルが苦手だからだ。
 今年の4/28に釣った2匹のシーバスもイワシボイルだったが、そのポイントに何度挑んでもボウズが続き、雨と濁りという条件を揃て、ようやく口を使わせることが出来た。それ程までに、ベイトの多さ、そしてイワシボイルは厄介なのだ。
 後から分かったことだが、ベイトの正体はイワシではなく、サッパの様であった。
 今回は、日中の太陽光にも負けないほどの白の常夜灯の光量に、水深2〜3m下まで見えるほどのクリアウォーター。人や車が常に行き交い、無風で雨も降っていない。
 終いには、これほどの数のベイトがおり、複数匹のシーバスたちが、堂々と明部に姿を現し、ベイトを食い漁っている。完全な見えシーバスだ。
 シーバスの明暗打ちには、想定し得る最悪の状況だが、これを攻略出来ずして、この静岡のシーバスアングラーは名乗れない。
 長らくヒラスズキだけを追い求めていた。クロダイ釣行ついでのシーバスを除けば、約2ヶ月振りのシーバス釣行だ。今の私に、これが攻略出来るだろうか。
 活性は申し分ないが、これほどの活き餌を前に、擬似餌を食わさるのは至難の業だ。かなり重い気持ちのまま、我が右腕、KAGELOU MD 98Fを手に取った。

 KAGELOU MD 98Fでの1投目。明部のベイトボールのさらに奥、暗部にルアーを着水させて、なるべくレンジが入るようにロッドを下げる。あとは、明部のベイトボールの脇を掠めるように、ただ巻きで誘っていく。
 すると、70cmはあろうシーバスがチェイス。そして、控えなアタリと共に、丸見えバイト。しかし、ヒットに至らなかった。
 おそらく、今のは掛かり所が悪かったのではない。バイトの瞬間に違和感を覚えながらも、興味本位で突いただけだ。
 あのサイズのシーバスなら、もっと強力なアタリがある。完全に餌だと思って食った時のそれとは、あまりにもかけ離れていた。
 2投目以降にはチェイスもなく、数投おきにルアーローテーションを繰り返した。
 サイズ問わず、ミノー、シンキングペンシル、ワーム、ブレード、バイブレーション、メタルジグ。ありとあらゆるアクションや巻き速度を試すが、そのうちいくつかのルアーへの、数回のチェイスのみ。釣行開始の1投目以降、一度のアタリも得られなかった。
 その間にも、数匹のシーバスの群れが、その明暗部に、入れ替わり立ち替わりを繰り返していた。合計でいえば10匹はくだらない。それにも関わらず、この様だ。
 気付けば既に、2時間が経過していた。私がここまで躍起になり、1箇所のポイントを狙い続けるのも珍しい。それほどまでに、この状況を打破出来ない自分への、強い苛立ちがあったのだ。
 やはり、カゲロウでの1投目で確実なバイトを誘えなかった時点で、私の負けは確定していた。そろそろ潮時のようだ。
 今尚、ボイルは続いているが、これほどの活き餌の前では、私のルアーなど、もはや見向きもされないのだ。
 ルアーの真横を通り過ぎ、ベイトに食い付くシーバスを見ていると、友人に声を掛けられたので手を振り返したが、その友人が声を掛けたのは私ではなく、私の後ろの人間だった。そんな状況に思えてくる。とても切ない気持ちになった。
 何度目かのVJを最後に投げ、このポイントは諦めよう。そう思い、VJにスナップを通した。

 するとここで、幸運が舞い込んだ。
 この明暗部を出ては戻ってを繰り返しているシーバスの中に、おそらく今日初めて立ち寄ったであろう、大型の3匹のシーバスの群れが、戦闘機の如く並走しながら、堂々と明部に殴り込んできたのだ。
 明らかに、今日一度も見ていない群れだ。これは千載一遇のチャンス。これを逃せば、待つのは本当の完全敗北だ。何がなんでも、絶対に獲る。
 前回のイワシボイルで釣ったシーバスの内1匹も、VJで釣っている。スレ掛かったベイトから判断するに、ベイトの正体はサッパの様だが、この際同じようなものだ。
 ルアーはこのままVJでいく。いや、VJでなければならないのだ。
 
 そして、命運を分ける、VJでの1投目。着水音を極力減らす為、限界まで弾道を下げ、左手の中指と右手の親指で、包み込むようなサミングをして減速させながら、完璧な着水点に落とし込む。
 表層へ逃げ惑うベイトボールのやや下へ通し、その3匹の前へと送り込むと、ヒットだ。
 即座にロッドを寝かせて、普段と比べればかなり控えめなアワセを入れる。そのままティップを水中に入れ、ヒット直後のエラ洗いを封じる。
 VJのフックは、掛かりは良いが非常に細く、過去に何度も伸ばされている。試しにサイズを上げたことがあるが、ライントラブル等が多発した。やはり、メーカーの推奨するフックサイズは変えるべきでない。
 フックが伸びるのは、アワセが不十分か、掛かり所が悪い時だと、村岡昌憲氏が言っていた。私自身、思い当たる節が多い為、それには同感だが、いくらなんでも#12のフックを使い、いつもの様なパワーファイトをするのは不可能だ。
 シーバスを底へと突っ込ませ、向こうアワセで、より確実なフッキングを決めるとしよう。水中でのファイト時間が長いほど、より深いフッキングを決めることが出来るのだ。
 ドラグをやや緩めて、ロッドを限界まで水中に入れると、シーバスは逃げる様に、心地よいドラグ音を奏でながら、ひたすら底へと突っ込んでいく。まんまと、私の術中にはまっているとも知らずに。 
 サイズが良い為、ヒラスズキほどの速度は無いものの、かなり強烈な引きだ。
 ロッドを水中に入れてのファイトで最も注意しなければならないのが、目に見えないストラクチャー等によるラインブレイクだ。ある程度の水中の状況は把握しているが、万が一に備えて、かなりドラグを緩めることで、ラインのテンションを張り過ぎないように調整する。
 引きの強さとファイトの経過時間から、フッキングに問題は無さそうだ。ここからは浮かせながら体力を削り、タイミングを見て、ランディングの体勢に入る。
 浮かせてくると、水中にいる状態でも見て分かるほど、VJは完璧な掛かり方をしているが、念の為、エラ洗いをしないシーバスの水深を保ちながら、ランディングネットに誘導する。
 しかしこれが、なかなか言うことを聞かない。何度も横へ下へと逃げ続ける。
 2ヶ月振りのシーバスだ。ましてや、この一匹をヒットさせるまでに、2時間を費やした。シーバスアングラーとしての復活の狼煙を上げるためにも、この一匹だけは、何がなんでも、キャッチしなければならないのだ。
 こうなれば、その白い腹を上にして浮いてくるまで、完全に体力を削り取るとしよう。再度底へと潜らせて、徹底的に体力を削り続ける。
 しばらくして、ようやく観念したようだ。白い腹を上にして浮いてきた。
 水面に浮かぶ大きなゴミでも掬うように、疲弊し切ったその巨体を、ランディングネットへと落とし込んだ。

 今回のファイトでのエラ洗いの回数、なんと0回。
 シーバスのエラ洗いとは、シーバスフィッシングの醍醐味であると同時に、シーバスアングラーにとっては、その行為をさせるてしまうようなファイトをすること自体が、何よりの恥なのだ。
 小沼正弥氏が言っていたが、プロのシーバスアングラーが、ファイト中にエラ洗いをされているのは、撮れ高の為に会社から頼まれているからであり、本来はエラ洗いをさせないファイトをすることが理想であると言っていた。
 シーバス、ヒラスズキのキャッチ数、これにて計15匹。バラした魚は数知れず。だが、エラ洗いを0回に抑え込むことに成功したのは、今回が初めてだ。
 2ヶ月振りのシーバスへの喜びよりも、エラ洗いを一度もをさせなかった、自身のシーバスとのファイトスキルの向上に、何よりも喜びを感じた瞬間であった。
 エラ洗いの完全封殺。夢にまで見た、見事なまでのパーフェクトゲームにて、ゲームセットだ。

 体力を削り切ってのキャッチの為、すぐには引き上げずに、水中で休ませる。暴れ始めたのを合図に引き上げた。
 サイズは62cm。2ヶ月振りの復帰戦には、満足の一本だ。
 フッキングは文句無し。まさに手本の様な掛かり方だ。ペンチで強引に引き抜き、身切れさせなければならないほどに、それは深く食い込んでいる。
 何より、このサイズの魚とのファイトで、#12のフックが伸ばされていない。今回の向こうアワセのフッキングに、ドラグを使ってのラインテンションのコントロールが、いかに完璧なものであったかを物語っている。
 そのヒレには欠けが無く、熱帯魚マニアの間で高値で取引される、極美個体と言ってもいいほどだ。
 元々は回遊型だったが、水温が安定したのを見兼ねて、この港湾部に、最近入ってきたばかりの個体と思われる。
 おそらく食べても美味しいのだろうが、このサイズにもなると、食べ切る頃には飽きが来る。十二分に蘇生をして、リリースした。
 
 粘り勝ちと言えば聞こえは良いが、今回は運に助けられた。胸を張って誇れる釣果ではない。
 やはり、あのカゲロウでの1投目で、確実なバイトを誘えるようでなければ、この先のシーバスフィッシングで、安定した釣果は見込めない。
 そうとは言っても、これだけ最悪な条件下で一本を出すのは、やはり至難の業だ。今回ばかりは、多めに見てやってもいいだろう。

 クロダイが守り抜いてきたこの街に、今再び、港湾部のチンピラが帰ってきた。
 劣勢となるやいなや、尻尾を巻いて逃げ出して、あれだけ姿を消していたにも関わらず、気付けば何事も無かったかのように舞い戻り、この街の中心街を、堂々と肩で風を切り、再び幅を利かせ始めたのだ。
 暗がりに身を隠し、弱そうな奴を見つければ食い物にする不良、シーバス。
 片や、幼少期から過酷な環境で鍛錬を積み続け、その道の頂点に立った、ヒラスズキ。
 不良とオリンピックのメダリスト。相反するこの2種に、今後も私は、翻弄され続けるのだ。
 

 
 

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釣果データ

釣れた日
2025年09月27日 00:10
魚種
シーバス
サイズ
62.0cm
重さ
匹数
1匹
都道府県
静岡県
エリア
三保
マップの中心は釣果のポイントを示すものではありません。
シーバスが釣れる近場の釣果

シーバス × 静岡県

シーバス × 三保

状況

天気
 23.0℃ 北 1.9m/s 1014hPa 
潮位
51.5cm
潮名
中潮
月齢
5.3
水温
水深
タナ(レンジ)

この日の釣行

日時
2025年09月27日 00:10〜00:10
00:10 釣行開始
三保で釣り開始
GOSEN
ゴーセン ルーツ pe8本編み 1号/20lb/9.1kg/ライトグリーン
00:10 釣行終了

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